歌に隠れた彼らの事情【back number:エンディング】

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この写真、夏にわたしが撮ったものなのだけれど、見るたびに「back number」を思い出すんですよね。

 

撮った角度とか花の色合いとか開き方とか、後ろが黒いところとか、なんとなく彼らっぽい感じがする。MVに出てきそう、こういう花束。

 

 

みなさんの中で、back numberの曲を聴いたことが1度もない!という人はいないでしょう。「花束」「高嶺の花子さん」は、特に彼らを好きだというわけではなくても、耳にしたことはあるはず。あと、これからの時期で言えば「クリスマスソング」とか。

 

私は数年前からback numberが好きで、仕事の帰り道にスーパーの買い物袋をぶら下げて聴くならこの歌、イライラしていて雨も降ってたらこの歌、と時間・天気・状況で聴く歌が決まっています。

あとは、歌を聴きながら「きっとこういう人がこんな状況で聴いているだろうな」と妄想したりもします。

 

 

今回選んだ歌は、私の「back number全曲の中で再生回数が多いランキング」で堂々(たぶん)1位の【エンディング】。

 

ふとした瞬間に頭の中でこの歌が流れるほど聴きこんでいる男性がいるとすれば、きっと彼はこんな状況なんだと思う。

 

 

 

 

‘‘別れ’’というものは前触れもなく突然やってくるものだと、相場が決まっている。今まで聞いたことのないほどハッキリとした声だったのに、ぼくはなぜか聞き返していた。

 

 

「別れよう」

 

 

目の前に座る彼女は、大きい窓から燦々と降り注ぐ太陽の光を背中に浴びて、まるで後光が差しているようだった。こんな時なのに、「女神のようだ」とぼくは心の中で呟いた。あれ、今なんの話していたんだっけ。そうだ、ぼくの両親の話だ。60を目前に控えている両親がいつまでもイチャイチャとしていて、ついこの間の結婚記念日にはふたりで旅行に行った、あの話をしていたんだった。

  

 

「あの日ふたりで観た映画の、エンディングみたいだね」

 

 

彼女は、しばらく前に飲み終えたコーヒーカップのふちを左手の親指と人差し指でなぞり、口紅を拭う。ぼくはその動作を見つめながら、先ほどなみなみと注いだばかりのコーヒーカップを両手で持ち、ズズズ、と音を立てて飲んだ。一体いつの話をしているのだろう。映画は何度も一緒に観に行ったし、いくらぼくの記憶力が優れているからと言って、それらのエンディングをひとつひとつ正確に覚えているわけじゃない。

 

彼女はコーヒーカップを洗っている間、ぼくの話の続きを聞いて、「素敵なお父様とお母様ね」と他人行儀な口ぶりで呟いた。

 

 

昨日の夜から何度も視界に入る花柄のスカートは、君の着る服のなかで1番好きだと、たしか付き合いたての頃に言ったものだ。もう2年が経つだろうか。

薄着の季節になると頻繁に登場するその見慣れたスカートが、彼女のゆったりとした動きを追いかけるようにしてふわりとゆれる。

 

身支度を整えた彼女はもう1度目の前に座り、まるで何かを確かめるようにしてぼくの瞳を見つめた。別れようという彼女の声が頭の奥でこだまして、耐え切れずに逸らした視線が、コーヒーの表面に映る自分のそれとぶつかる。

 

「悲しいね」

 

頭の上から、とてもそう思っているようには思えないほどの清々しい声が聞こえて、顔を上げてはっとした。まばたきをするたびにふぁさっと音が聞こえてきそうな睫毛、その奥に潜む黒い瞳を少しだけ輝かせるなみだ、綺麗に上がった口角。見慣れない笑顔が、そこにはあった。

唖然としているぼくに気が付かないふりをしたまま、彼女はまっすぐとした瞳で「ありがとう」と言って、部屋を出ていった。

 

 

ワンルームの部屋には、椅子に座るぼくまでは届かない太陽の光と、今までぼくが嗅いだことのない彼女の新しい香水のにおいだけが残っていた。

 

 

(つづく)