歌に隠れた彼らの事情【back number:エンディング】続き

 

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彼女と別れて2週間が経った。

日曜の午後は、ふたりで過ごすと決めていた。それなのにふたりで乗り慣れたこのバスには今、ぼくしか乗っていない。

バスの揺れ方で人生の意味が分かる能力を持っていたら、彼女が離れていくこともなかった、かもしれない。

 

 

 

街に繰り出せば彼女の面影がそこかしこでユラユラと動いて、それを見つけるたびに「別れよう」という彼女の一言がどこからか聞こえてきた。

 

 

アパートから4分ほど歩いたところにあるコンビニエンスストア。去年の冬、夜中の1時ころに突然おでんが食べたくなって、ふたりで縁石に座って「寒い寒い」と言いながら食べたっけ。

駅前にある個人経営の本屋は、品揃えはそんなに良くないし店主も不愛想だったな。それでも古い本屋独特の湿っぽい空気や微かに聞こえてくるジャズが堪らなくて、彼女の手を引いて週に何度も足を運んだ。

そういえば今年の春には、大通り沿いのカフェの店内を走り回る子どもたちに嫌気が差して、来たばかりのホットコーヒーと彼女を残したまま、店を飛び出したことがあったな。暫くして彼女は笑って帰ってきて、「もう、子どもなんだから仕方ないじゃない」と呟きながらホットコーヒーを淹れてくれた。

 

 

今でさえ、右耳に挿しているイヤホンを取って、隣に座っているはずの彼女に「今日の晩御飯はなに?」と聞きそうだ。彼女はふっと笑って、晩御飯のメニューよりも先に「音漏れしてるよ」と囁く。

当然だが、隣を見てもあるのは1人分空いた席だけ。たった2週間前まで埋まっていたのになあ。

 

 

 

別れって、もっとこう、鋭利な刃物でスパッと切られた時のような激しい痛みを感じるものではなかっただろうか。少なくとも小説の中ではそうだった。男女が言葉のナイフを振り回しながら激しく言い争って、本当なら言うべきでないことまで目から口から全身の穴から溢れ出てきて、血塗れになるものだと。

 

それなのに、別れ際彼女は笑っていた。見慣れない笑顔だった。いや、その時だけじゃない。思い出の中の彼女はどんなシーンでも笑っていた。ぼくといる時はいつだって、彼女は微笑みを絶やさなかった。

 

 

 

窓の向こう側をゆるやかなスピードで流れていく木々や人々を見つめていると、聞き慣れない音楽が耳の中へ流れ込んできた。

料理を作る時に、彼女がよく鼻歌で歌っていた曲だ。同じパソコンを使って音楽を入れていたから、その時に入ってしまったのだろう。

 

 

 

‘‘二人でいるといつでも 僕は僕の話ばっかりして’’

 

ぼくが好んで聴くジャンルではないけれど、たしかに彼女は好きそうだ。ぼくとは違う切なげで甘い声に、おだやかに響くベース、なぜだか走り出したくなるようなメロディーと歌詞。

 

 

‘‘君が僕にしてくれた事は いくらでも思いつくのに してあげられた事も 今言える言葉も 僕は見つけられずに’’

 

ぼくもあの時あの瞬間、何も言えなかったな。見つけようともしなかった。

おでんを食べた時は寒がるぼくの背中にカイロをあててくれたし、本好きでもないのに毎週本屋に付き合ってくれた。

ぼくがいくら怒っていても、彼女は普段通りだった。機嫌を取ろうと必死になることも、「どうして怒ってるの?」と泣きそうな顔で聞いてくることも一切なかった。普段通りでいることが1番の薬だと知っていたのだろう。

 

 

‘‘寂しいも会いたいも しまいこんでは微笑んだ君の その顔を笑顔だと いつの間にか思い込んでたんだろう’’

 

果たして彼女の笑顔は、心からの‘‘笑顔’’だったのだろうか。思えば、彼女の口から「寂しい」や「会いたい」といった言葉を聞くことは本当に少なくなっていた。

思っていることは言葉にしないと伝わらない。でも、言葉にしないからといって、それが‘‘無い’’わけではない。彼女が「寂しい」と言わないから寂しくないだろう、と決めつけてはいなかったか。

 

 

‘‘同じ場所で同じものを見てたはずなのに 僕は一体何をしていたんだろう 君にこんな顔をさせるまで’’

 

彼女はぼくの隣で同じ景色を見ながら、どんなことを考えていたのだろう。

ぼくが記念日を忘れた時は?仕事がうまくいかなくて八つ当たりした夜は?毎週一緒に観てたバラエティー番組は本当に面白かった?柔軟剤は、シトラス系よりフローラル系の方が本当は好きなんだよね?

彼女の考えていたことや感じていたことを知りたいと願ったところで、今更だ。今までにそうしてこなかったツケが回ってきたんだ。

 

彼女はあんな笑顔で「悲しいね」と言えるようになるまでに、どれほどの苦悩と向き合ってきたのだろう。

 

 

‘‘あの日ふたりで観た映画の タイトルすらも僕は思い出せないままで’’

 

どれだけ彼女のことを考えてみても、結局「あの日ふたりで観た映画のエンディング」は分からない。彼が歌うように、タイトルすらもぼんやりとしている。ぼくの記憶力なんてそんなもんだったんだ。

そんなぼくの隣で、カフェで走り回っていた子どもに対するような「仕方ない」という諦めを抱え続けてきたのかもしれない。

 

 

 

‘‘最後の最後になって今 君の代わりなどいないと気付いたのに’’

 

歌詞のひとつひとつが棘となって、ぼくの胸に突き刺さっていく。ひとつひとつは小さくても、塵が積もれば山となる。

彼女は今どこで何をしているのだろう。何に喜びを感じ、何に涙するのだろう。今ならきっと、本当の笑顔かどうか見抜けるのに。

あの花柄のスカートを履いて、街角から飛び出してきてはくれないだろうか。

 

 

 

終点のアナウンスが聞こえて、ぼくはイヤホンをそっと外した。

 

「君の代わりなど 僕はいらないのに」

 

最後の歌詞は、聴かなくてもなんとなくわかった。

 

 

 

 

 

この世界のどこかで、back numberの【エンディング】を聴きこんでいる男性がいるとすれば、こんな状況なんじゃないかなあと思います。

 

こういった長い妄想ストーリーを書くのは初めてだったので、至らない点はいくつもあるのですが、まずはここまで読んでくださったあなたに感謝します!ありがとう~~~~!!!

 

1回目を書いてからだいぶ経ってしまったのですが、ゆるゆると続けていければと思います。

 

 

今回の記事を読んでくださった方がback numberを知ってくれて、【エンディング】を聴きたい!と思ってくださったら、これ以上に嬉しいことはありません……。

 

 

それではまた!今日もいちにちハッピーに過ごしましょう~~❤