自転車に乗せて、花束を届けたい

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自転車のカゴにあふれんばかりの花束を乗せ、大切なひとたちに届けたい。

これは、生きているうちに叶えたい夢のひとつだ。

 

 

雲ひとつない澄んだ青空に、白いノースリーブワンピースが丁度いいくらいの気温。肩甲骨よりすこし長い髪をゆるりと巻いてハーフアップにしたら、グリーンのサンダルを履き、レモンイエローの自転車に跨る。

 

日曜日の13時。帽子を被った小さな子どもが母親らしき女性に手を引かれ、日陰を歩いている。空いた右手には赤や黄色で塗られた車のおもちゃを持っていて、いつの日か繋ぐかもしれない小さな手を想像し、ふわりと笑みがこぼれる。

 

勢いをつけ、足を前へ投げ出し、カラフルな住宅街を通る2車線の坂道をくだっていく。グングンとスピードは上がり、道のずっと向こうには、太陽の光をキラキラと反射する海が見えるだろう。青と緑の真んなかの色。あんな色のスカートを持っていたら、きっと毎日履いてしまうに違いない。

 

坂のいちばん下を右折して30メートルほどすると、30代後半くらいの夫婦が経営する花屋があって、キキーッとブレーキの音を鳴らしながら店の横に自転車を止める。

 

そして店に足を踏み入れた瞬間、世界は一変する。視界全体を緑が覆い、ピンクや青、黄色や紫の花が絨毯のように敷きつめられていて、花のにおいがわたしの肌に膜をはる。まるでわたしそのものが花になってしまったかのよう。

 

店の奥には旦那さんと奥さんがいて、「もう出来上がっているわよ」と腕いっぱいの花束を持たせてくれる。花に詳しくないわたしはいつも「おまかせで」とお願いするのだけれど、渡したい相手や理由を正確に汲み取ってくれて、イメージ通りのものを作ってくれるからすごい。

 

首から下げた小さなお財布からお金を取りだし奥さんに渡すと、花束を抱えて元の世界へ戻り、自転車のカゴにしっかりと乗せる。

近くを通ったおばあさんに「綺麗な花束ね」と声をかけられるだろうから、「うふふ、そうでしょう。これから届けに行くのよ」と笑い返そう。

 

サドルに跨り、グン、と右足から漕ぎ始め、果物市場や八百屋のあいだをゆったりと通りすぎると、1人目の家に到着する。薄いピンク色のアパートを見上げると、窓辺に座っていた彼はこちらに気がつき、ひらひらと手を振って家の中に姿を消す。

 

 

こんなふうに自転車で坂をくだったりのぼったり、時おり寄り道をしたりして、大切なひとに花束を届けに行きたい。

 

カラフルな街並みのイメージは、たとえばメキシコのグアナファトとか、フランスのコルマールあたりだろうか。コルマールは‘‘ハウルの動く城’’のモデルになっているらしい。まさしくあんな感じ。

 

 

考えてみれば、今すぐにでも叶えられる夢だ。

フリーランスだからどこに行っても仕事はできるし、今すぐ旅立つことも可能。人生はいつ終わるかわからない。もしかすると明日死んでしまうかもしれない。今叶えられる夢なら、今叶えるべきなのかもしれない。

 

けれど、この夢を見続けることで、わたしの日常と未来は色鮮やかさを増す。

自転車に乗って、大切なひとたちに花束を届ける未来が待っているという確信がある。未来のわたしは間違いなくその夢を叶える。

 

だからその夢は未来のわたしに預けた。未来のわたしが叶えると、決めた。

いつかの日をイメージするだけで幸せだし、今は今やるべきことに注力したいと思う。

 

 

そういう夢のかたちもあるのかな、とぼんやり考えながら、‘‘ハウルの動く城’’のDVDを手に取った。